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検査前プロセスでの誤差要因 > 第2回:検体採取、検体搬送・保管

索 引

[第2回]検体採取、検体搬送・保管

検体採取

1.採血前

1)採血部位(動脈・静脈・毛細管血差)

検査項目 特徴
WBC、
RBC、Hb、Hct
静脈血<毛細管血(15~20%)
GLU 動脈血>静脈血
pH 動脈血>静脈血(約0.03高い)
pO2 動脈血>静脈血(約37mmHg高い)
HCO3 動脈血<静脈血(約1.0mmoL/L低い)
文献2、5~6)より改変引用

2)採血管(抗凝固剤、凝固促進剤、血清分離剤)の影響

① 抗凝固剤
種類 抗凝固剤の作用 影響する検査項目 影響所見
EDTA塩 2価金属イオンの非可逆的キレート作用 Ca、Fe、Mg、ALP、AMY、
LAP
低値
Na、K 高値(測定不能)
クエン酸Na 2価金属イオンの可逆的キレート作用 AMY 低値
Na 高値(測定不能)
NaF 弱いキレート作用
(血糖専用容器にはEDTAやヘパリンが含まれる)
Ca、Fe、Mg、ALP、AMY、
LAP、ChE
低値
Na 高値(測定不能)
ヘパリン 抗トロンビン作用 TP、LD 高値
文献2)より改変引用
② 凝固促進剤

 現在、国内で販売されている採血管の素材はほぼ全てプラスチックである。プラスチック自身は凝固促進作用は持たないため、凝固促進剤が塗布されている。したがって採血直後の混和が不十分だと、微小フィブリンの析出、血球成分の浮遊などによって、高感度試薬を使用する検査項目(HBs抗原HIV抗体、など)が疑陽性を示すことがある。

文献7)より引用
③ 血清分離剤

a)血中薬物濃度

 血中薬物の分離剤への非特異的吸着によって、偽低値を示す。
 分離剤の組成(採血管メーカーにより異なる)により、影響の特性(対象となる薬物の種類、測定値への影響の程度、など)も異なる。

b)プロゲステロン

 遠心分離した状態で放置すると、低下する。
 24時間室温放置した場合、測定値は約1/2になると言われている。
文献4、6)より引用

2.採血時

1)採血量不足

 真空採血管の規定量の採血が行われないと、採血管内部の残陰圧により赤血球がパンクして溶血し易くなる。K、LD、AST、Feなどが高値を示すことがある。
 ただし、測定値への影響は残陰圧や経過時間の程度により異なる。

2)採血針の太さ

 通常、採血には21~22Gの採血針が用いられる。これより細い採血針を使用すると、赤血球への負荷が大きくなり溶血を起こし易くなる。

3)注射器採血

 注射器採血を行う場合、シリンジを強く引きすぎると赤血球への負荷が大きくなり溶血を起こし易くなる。
文献7~8)より引用

4)クレンチング

検査項目 特徴
K 筋細胞の脱分極中に細胞内電気陰性度が弱まり、能動輸送によるK取り込みより放出が優位となるため上昇
2.0mmol/Lの高値を示したとの報告例もある。上昇の程度は個体差あり。前腕運動停止後、速やかに基に戻る。
Na、Ca 軽度に上昇傾向を示す。
乳酸 前腕運動停止後も5~10分程度、上昇が持続する。
文献1)より改変引用

3.採血後

1)混和不十分

 抗凝固剤を含む採血管では、フィブリン塊の析出により検査不能となる。
 また抗凝固剤を含まない採血管であっても、プラスチック素材の採血管(凝固促進作用を持たない)には凝固促進剤が塗布されているため、採血直後の混和が不十分だと、微小フィブリンの析出、血球成分の浮遊などが生じる。この場合、高感度試薬を使用する検査項目(HBs抗原HIV抗体、など)が疑陽性を示すことがある。

2)注射器採血分注時のシリンジの押し込み

 赤血球への負荷が大きくなり溶血を起こし易くなる。また、分注時の泡立ちによっても溶血し易くなり、K、LD、AST、Feなどが高値を示すことがある。

3)採血後の検体落下

 赤血球への衝撃や血液の泡立ちにより溶血を起こすことがある。
 採血後30分間放置した全血状態で1mの高さから1回落下させただけで、LDが1.5倍の結果を示したとの実験データもある。
文献7、9)より引用
検体搬送、保存条件(検体採取から遠心分離・分析まで)

1.血液学的検査

検査項目 現象 不適な保存条件 メモ
WBC
RBC、Hct
Plt
長時間の室温保管
低温保存
寒冷凝集素や赤血球自己抗体の存在時
(特に冬季)
MCV
末梢血液像 変化 長時間の室温保管 細胞の変形・破壊により、形態が変化
特にWBCで影響大
好中球NAPスコア
エステラーゼ染色
POD染色
酵素活性の失活による
赤沈 長時間放置で遅延
室温で2時間、4℃で6時間とされる

2.凝固・線溶検査

検査項目 現象 不適な保存条件 メモ
凝固・線溶検査全般 長時間の室温保管 凝固因子の活性低下により延長
APTT 5時間程度の室温放置で約10%延長
凝固第Ⅴ因子
凝固第Ⅷ因子
採血後の軽度な凝固が起こった場合
凝固が進展した場合

3.生化学検査

検査項目 現象 不適な保存条件 メモ
血糖 長時間の室温保管 血球による糖消費
白血球、血小板の著増例で顕著
NaF使用でも3時間で約10mg/dL低下
T-Bil、D-Bil 紫外線による分解
アンモニア 赤血球(血清の約3倍濃度)から漏出
血漿蛋白由来のNH3発生
乳酸 血球内での解糖で産生
NEFA LPLによるTGの分解で増加
エステル型
コレステロール
LCATによるエステル化が進行
AST 赤血球(血清の約80倍濃度)から漏出
LD 赤血球(血清の約200倍濃度)から漏出
アルドラーゼ 赤血球(血清の約150倍濃度)から漏出
酸性ホスファターゼ 赤血球(血清の約70倍濃度)から漏出
K 赤血球(血清の約23倍濃度)から漏出
無機リン 血餅収縮に伴う血球から漏出
Zn Zn含有酵素の失活に伴う遊離
インスリン 血中の蛋白分解酵素による分解
C-ペプチド
ACTH
活性型レニン
PTHrP
BNP
カテコールアミン 酸化作用を有する物質やモノアミンオキシダーゼにより酸化・分解

4.血液ガス

検査項目 現象 不適な保存条件 メモ
pH
pO2
長時間の室温保管 血球の代謝や解糖が進行し低下
白血球増多症で顕著
pCO2 血球の代謝や解糖が進行し増加
白血球増多症で顕著

5.免疫学的検査、腫瘍マーカー、感染症検査

検査項目 現象 不適な保存条件 メモ
クリオグロブリン 37℃以下で保存 37℃以下で凝固・ゲル化する。遠心分離の際、血餅と一緒に沈殿してしまうため、陰性化
CH50 長時間の室温保管 失活(補体は熱に弱い)のため
サイトカイン 失活(全般的に熱に弱い)のため
PIVKA-Ⅱ 凝固系の活性化が起こると偽低値
CA125 糖鎖構造変化によるエピトープの増加
ProGRP 蛋白分解酵素による分解
淋菌 低温保存 低温に弱く、生体外で速やかに死滅
髄膜炎菌
マイコプラズマ抗原
トリコモナス
寄生虫検査

6.一般検査

検査項目 現象 不適な保存条件 メモ
尿色調・混濁 増強 長時間の室温保管 ウロビリン増加・濃色化
細菌繁殖、塩類析出で混濁
尿pH 増殖した細菌による尿素分解で生じるアンモニアによりアルカリ化
尿蛋白 pH9以上のアルカリ化で疑陽性
塩酸などの保存剤 pH低下により偽陰性
尿糖 長時間の室温保管 増殖した細菌による糖の消費
尿潜血 赤血球溶血により陽性化
ペルオキシダーゼ活性低下で偽陰性
尿ビリルビン 紫外線によりビリベルジンに変化
尿ケトン体 アセトンとアセト酢酸に分解され、揮発により偽陰性
尿亜硝酸塩 採尿直後は細菌の硝酸塩還元作用
分解されて陰性化
尿中白血球 白血球破壊によりエラスターゼが活性化
エラスターゼが変性し陰性化
尿沈査 変性 細菌増殖でアルカリ化し、有形成分が崩壊
髄液糖 細胞や細菌による糖の消費
髄液形態 変性 採取後1時間で変性が始まる
3時間で50%以上の形態が喪失
便潜血
(免疫学的測定)
腸内細菌由来のプロテアーゼによる分解
文献10)より抜粋引用
遠心分離後の保存

1.凝固検査

検査項目 現象 不適な保存条件 メモ
PT 冷蔵、凍結保存
(遠心分離の有無に関わらない)
コールドアクチベーションによる第Ⅶ因子の活性化
冷蔵保存は推奨されない(全血、血漿とも)
血漿は、-20℃保存で2週間、-70℃以下で1年程度が目安
APTT フォン・ウィルブランド因子と第Ⅷ因子の活性低下
血漿は、冷蔵で4時間、-20℃保存で2週間、-70℃以下で1年程度が目安
文献11)より抜粋引用

2.生化学検査・免疫学的検査

検査項目 現象 不適な保存条件 メモ
K、LD
(溶血により影響を受ける項目全般)
1回遠心分離した採血管をそのまま冷蔵保存 → 再遠心 保存中に赤血球から分離剤下層の残血清への漏出
LD 冷蔵、凍結保存 短期保存は4℃、長期保存は-80℃以下
(-20℃での長期保存は低下する)

LD4、LD5は4℃保存で失活し易い
(特に、LD5は不安定)
AST、ALT ALTはASTより不安定
ALTは-20℃保存では失活する
CK 4℃保存では24時間で約25%低下
保存は-80℃以下で行う
アルドラーゼ 4℃保存では24時間で約15%低下
凍結でも2週間で約10%低下
補体活性(CH50) 冷蔵保存 クリオグロブリン用物質によって補体活性化を招き、コールトアクチベーションにより偽低値
文献2、12)より抜粋引用
検体採取
検体搬送、
保存条件

遠心分離後
の保存

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