疾患解説
フリガナ | チョウチフス |
別名 | 腸熱 |
臓器区分 | 感染性疾患 |
英疾患名 | Typhoid Fever |
ICD10 | a01.0 |
疾患の概念 | グラム陰性桿菌であるサルモネラ菌属の一種、腸チフス菌(Salmonella typhi)の経口感染による発熱性感染症で、3類感染症に分類されている。菌は回腸粘膜のリンパ組織に侵入し増殖した後、菌血症を起こし、重症例では腸潰瘍、腸出血、腸穿孔を起こす。わが国の感染者の80%は、発展途上国からの輸入感染である。腸チフス菌は、無症候性保菌者と活動性感染者の便中および尿中に排出され、排便後の処理が不十分であると、菌が食物や飲用水を汚染する。無治療患者の約3%は、胆嚢に菌を保有し1年以上にわたり便中に菌を排出し、慢性保菌者と呼ばれるが、一部の保菌者は臨床的な腸チフスの既往がみられない。疫学データからは、保菌者は一般集団と比べ肝・胆道癌を発症する可能性が高いことが示されている。 |
診断の手掛 | 潜伏期間は8~14日で、期間は摂取された菌数に反比例する。原因不明の発熱(39.4~40℃の高熱)、頭痛、関節痛、咽頭炎、便秘、食欲不振、腹痛などを訴える患者が、菌との接触を示唆した場合は本症を疑い検査を進める。初期の身体的所見であるバラ疹、肝・脾肥大、鼻出血、相対的徐脈を見逃さない。無治療の場合は、体温が2~3日かけて上昇し、その後10~14日間39.4~40℃の高熱が持続し、3週目の終わりから徐々に解熱し、4週目には正常体温となるが、8~10%の患者は、解熱から約2週間後に初発時と同様の症候が再発する。重症例では、せん妄、昏迷、昏睡などの中枢神経系症状と特有の無欲状顔貌(チフス様顔貌)が見られる。約10~20%の患者は、2週目に圧迫で退色するピンク色の不連続な病変(ばら疹)が胸部と腹部に群発するが、2~5日で消失する。感染後期には、腸管病変が著明となり、鮮紅色の下痢や血便(20%で潜血便、10%で肉眼的血便)が見られる。約2%の患者は、3週目に重度の出血が起こり、この場合、死亡率は約25%に達する。3週目に見られる急性腹症と白血球増多は腸穿孔を示唆し、これは遠位回腸に生じ、1~2%の患者で発症する。 |
主訴 |
意識障害|Memory impaiment 咽頭痛|Pharyngodynia 肝腫大|Hepatomegaly 関節痛|Arthralgia 稽留熱|Continued fever 下痢|Diarrhea 高熱|High fever/Hyperthermia 食欲不振|Anorexia 徐脈|Bradycardia 頭痛|Headache/Cephalalgia せん妄|Delirium チフス様顔貌|Facies typhsa/Typhoid facies 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever バラ疹|Rose spot/Roseola 脾腫|Splenomegaly 腹痛|Abdominal pain 腹部膨満感|Sense of Abdominal fullness 便秘|Constipation 発疹|Eruption/Exanthema |
鑑別疾患 |
A型肝炎|Hepatitis A 悪性リンパ腫|Malignant Lymphoma ウイルス性出血熱 急性白血病|Acute Leukemia 紅斑熱 ツツガムシ病 デング熱|Dengue 白血球減少症 マラリア|Malaria レプトスピラ症/ワイル病 腎盂腎炎 肺炎|Pneumonia サルモネラ感染症 リケッチア症 播種性結核 ブルセラ症|Brucellosis 野兎病|Tularemia オウム病|Psittacosis エルシニア感染症 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/U] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S] Iron|鉄/血清鉄 [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B, /B] Lymphocytes|リンパ球 [/B] Neutrophils|好中球 [/B] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/U] Thyroxine (T4)|総サイロキシン/総T4/サイロキシン/チロキシン [/S] Tri-Iodothyronine (T3)|総トリヨードサイロニン/総T3/トリヨードサイロニン/トリヨードチロニン [/S] γ-Globulin|γ-グロブリン [/S] |
異常値を示す検査 |
Adenosine Deaminase|アデノシンデアミナーゼ [/S] Agglutination Tests [Positive/S] Alkaline Phosphatase Isoenzymes|アルカリホスファターゼアイソザイム/ALPアイソザイム [/S] Copper|銅 [/S] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/S] Malate Dehydrogenase|リンゴ酸脱水素酵素 [/S] Occult Blood|潜血反応(便)/グアヤック法/o-トリジン法/ラテックス凝集法 [/F] Phospholipase A2 Type II [/S] Thyroxine Binding Globulin|サイロキシン結合グロブリン/チロキシン結合グロブリン [/S] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/S] Zinc|亜鉛 [/S] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 正球性貧血が見られる。白血球の減少は最初の2週間は4,000~6,000/μL、次の2週間には3,000~5,000/μLである。10,000/μL以上になれば穿孔か化膿性病巣の存在を疑う。 【Widal Reaction】 現在は次の理由で使われない。1)発症初期1回だけの検査では診断できず、急性期と回復期の2回測定が必要で早期診断に役立たない 2)ワクチン接種や感染の既往で陽性になる 3)感度は70%程度で特異度に欠ける 4)多くの非チフス性サルモネラ菌株が交差反応を示す。 【血液培養】 発熱した最初の10日間は90%の患者で陽性であるが、第3週には50%以下になる。 【骨髄培養】 5日以内の抗生物質の治療でも陽性率は90%を維持している。 【尿細菌培養】 血液培養が陰性でも1/4の患者は2~3週の間に陽性である。 【糞便サルモネラ培養】 糞便培養は感染10 日後から陽性となり、4~5週までは陽性率が増加する。4ヶ月以降も糞便培養が陽性ならキャリア化と考える。 【3主徴】 1)比較的除脈(50%)、2)脾腫(20~30%)、3)バラ疹(30~50%)である。 |
検体検査以外の検査計画 |